馬は接する人の姿を映す“鏡”のようなもの

牧場にいるのは小型の馬でも体重は約400kg、大型の馬なら1トンを超える。近づいてくると想像以上に大きく、最初は少し恐怖感も覚える。だが慣れてくると、馬の側も言語以外のあらゆる感覚を使って人間を観察し、反応していることがわかってくる。

馬には、特に研修の「先生」としてふさわしい特質がたくさんあると小日向さんは説明する。

「まず、馬は特定の人を覚えてなついたりはしません。その時々に、そのときの相手のふるまいに対してストレートに反応します。基本的に“一期一会”で生きています」

つまり犬のように、飼い主には従うがほかの人のいうことはきかない、ということがない。指示の出し方が正しければ、相手が大人でも子どもでも同じように指示に従う。だから研修では、さまざまな人が馬を相手に、自分の指示の出し方を試すことができる。

さらに、馬には相手の意図を読み取って同調するミラーリングという特性があるという。人間同士が相手の言葉づかいやしぐさを真似するようなものだが、馬はもう少し深いところまで感じ取っているのではないかという。

 

「馬は、その人の体の動きや呼吸、雰囲気、“気”のようなものを感じ取っているようです」。そのため、口に出す言葉とは裏腹な感情や、自分自身が気づかないうちに態度に出てしまっている本音などを、馬がそのまま体現することがある。つまり馬は自分自身を映す鏡のようなものなのだという。

このように鋭敏な感覚と相手に対する協調性を持っているのは、馬が肉食動物の餌食になる弱い動物で、生き延びるために群れをつくり、常にいち早く危険を察知することが重要だったからだそうだ。